輸入食品の最終消費者に対 してよりも,まずは行政行為の直接の対象である輸入者に対して法的責 任を負っているし,また負わねばならないのである。
(イ) また,法3条1項は,食品等事業者が,その輸入する食品について, 自らの責任においてそれらの安全性を確保するため必要な措置を講ずる よう努めなければならない旨規定しているところ,被告は,原告が上記 のような義務を負っていることを前提として,原告の本訴請求はそうし た食品輸入業者としての責任を放擲するものであるなどと主張する。
しかし,原告は,その取引先に対して全面的に法的責任を負担し,現 にその責任を遂行している上,法3条は,あくまで努力規定にすぎず, 食品等事業者に対して命令し,義務を課す規定ではない。
(ウ) さらに,被告は,本件において原告が主張する利益は法的保護に値す る利益ではなく,いわゆる反射的利益にすぎないと主張する。
しかし,検疫所によって輸入食品の適正な検査が行われることは国民 の法的保護に値する利益であって,単なる反射的利益という性質のもの ではない。
また,原告は,被告の規制権限の不行使によって財産的損害 を被っているところ,この財産権は,法律上保護されるべき利益である。
【被告の主張】 ア国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個 別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を 加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定す るものであって,公権力の行使に当たる公務員の行為が同項の適用上違法 と評価されるためには,当該公務員が,損害賠償を求めている個別の国民 との関係で個別具体的な職務上の法的義務を負担し,かつ,当該行為が上 記義務に違反してされた場合でなければならず,その法的義務の発生根拠 となるべき保護利益は,その法規によって保護が予定されているものでな ければならない。
したがって,公務員の規制権限を定めた行政法規が,直 接個別の国民の権利・利益の保護を目的としていない場合には,当該規制 権限の行使が行政法規の定める要件に沿わないものであっても,直ちに個 別の国民との関係で国賠法上違法との評価を受けるわけではない。
国賠法 1条1項の違法が認められるためには,当該公務員に与えられた規制権限 を定めた法規の趣旨,目的を十分に検討し,規制権限の目的が個別の国民 の利益を保護する趣旨であることが確定された上で,当該規制権限行使の 時点において,当該法規によって課せられた当該個別の国民に対する職務 上の法的義務に違背して当該行為が行われたことを要するのである。
イそして,法は,食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な 規制その他の措置を講ずることにより,飲食に起因する衛生上の危害の発 生を防止し,もって国民の健康の保護を図ることを目的としているところ (1条),27条において,厚生労働大臣に対し,輸入届出に係る食品等 が法に違反するかどうかを認定判断する権限を付与していると解されるの であり,その目的が飲食に起因する衛生上の危害の発生の防止であること は明らかである。
他方,法は,食品等事業者に対しては,その輸入する販 売食品等について,自らの責任において,それらの安全性を確保するため, 必要な措置を講ずるよう努めなければならないなどとし(3条1項,3 項),食品の安全性については,食品等事業者が第1次責任を負うことを 明らかにしており(食品安全基本法8条1項も参照),厚生労働大臣は, 前記のとおり輸入届出に係る食品が法11条1項の規格基準に適合したも のかどうかを判断する権限を有するとしても,それは食品等事業者の安全 性確保義務の履行が不十分であることを慮って一般国民のためにこれを補 完すべく付与された第2次的なものであると解される。
また,法上,国と 食品等事業者との関係において,輸入行為について食品等事業者の財産的 利益を保護する趣旨の規定は見当たらない。
以上のとおり,安全性を満たす食品等を輸入する第1次責任は,当該輸 入を行おうとする食品等事業者にあり,法が27条において厚生労働大臣 に対して輸入届出に係る食品等が法に違反するかどうかを認定判断する権 限を付与している趣旨目的は,食品等事業者の安全性確保に係る責任の履 行を2次的に補完し,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,もっ て国民の健康の保護を図ることにあるのであり,個別の輸入業者との関係 で,当該業者が食品等を輸入する場合において,当該輸入食品等が安全基 準値を満たしていることを保証するものではないし,安全基準値を満たし ていない食品等が輸入されることによって当該業者に生ずる損害を回避す るといった利益を保護する趣旨を含むものではなく,このことは,法3条 1項の規定内容に照らしても明らかである。
このように,安全性を満たす 食品等を輸入する責任は,まずもって輸入によって利益を上げようとする 食品等事業者にあるから,その責任を果たさなかった結果,安全性を満た さない食品等を輸入したことによって発生した経済的な損失は,当該食品 等事業者の負担に帰するのは当然である。
以上によれば,食品等輸入届出済証の交付は,飲食に起因する衛生上の 危害の発生を防止し,もって,国民の健康の保護を図るという目的の限度 で検査して,その結果を通知するものにすぎず,原告に対し,当該輸入食 品等が法の定める安全基準値内の食品であることを保証するものではない し,安全基準値を満たしていない食品等が輸入されることによって原告に 生ずる損害を回避するといった利益を保護するためのものではないのであ るから,原告には法27条において保護が予定されている利益の侵害はな いというべきであり,厚生労働大臣から委任を受けた名古屋検疫所長又は 同検疫所職員が,原告との関係において,輸入等に伴う損失を回避するた め安全基準値を満たしていない食品等の輸入を排除すべく,食品等輸入届 出済証を交付しない法的義務ないしは食品衛生法違反通知書を交付すべき 法的義務を負っているとは解されず,したがって,その義務違背というこ ともあり得ないのである。
よって,名古屋検疫所職員が本件届出済証を原 告に交付した行為には,何ら国賠法上の違法は認められない。
(2) 争点?(本件届出済証の交付についての過失の有無)について 【原告の主張】 本件においては,本件しょうがに係る登録検査機関による残留農薬検査結 果が0.04ppmであり,基準値である0.01ppmを超えていたにも かかわらず,名古屋検疫所の担当官が0.1ppmが基準値であると誤認し, 上記検査結果がこの誤認した基準値0.1ppmを超えていなかったために, 基準値内であると誤判して合格証に相当する本件届出済証を交付してしまっ たのであり,上記担当官には重大な過失がある。
【被告の主張】 国賠法1条1項における過失とは,違法に他人に損害を生ぜしめるという 結果について予見可能性があり,回避可能性があるにもかかわらず,結果回 避のための作為義務を尽くさないことをいうと解される。
旧合併特例法
旧合併特例法は,市町村行政の広域化の要請に対処し,自主的な市町村の合併を推進し,あわせて合併市町村の建設に資するために市町村の合併について関係法律の特例その他必要な措置を定めるものであって(同法1条),地方自治法の定めを緩和する例外的措置となるものである。
本件で問題になっている議員の在任特例もその例外的措置の一つであるところ,在任特例は,合併後の市町村建設計画をより適切に実行するため,合併に関係した合併関係市町村の議会の議員に引き続き一定期間議員の地位を保障し,その意見を市町村建設計画の実施に反映させる趣旨で設けられたものと解される。
そして,在任特例の規定である旧合併特例法7条4項が準用する同法6条8項は,協議が成立したときは直ちにその内容を告示しなければならない旨を規定しているのであるが,この規定には,同じく合併に関する規定である地方自治法7条7項のように「告示によりその効力を生ずる」との文言やこれに類する文言はない。
また,条例や規則は,公布によってその効力を生ずるものであるが,在任特例は合併関係市町村の議員の在任期間を上記の趣旨で一時的に延長するものにすぎず,市町村民に新たな義務や負担を課すような法規的な性質を有するものではないから,条例や規則に準じた扱いをすべきものとはいえない。
なるほど,在任特例協議がされることによって合併後50日以内に行われるのを原則とする設置選挙が行われないという意味で,関係住民の選挙権,被選挙権が制約されるという面があることは否定し得ないとしても,そのような制約は,市町村の合併を推進するために旧合併特例法が特に許容したところであって,合併関係市町村の住民も在任特例協議の内容に不服を申し立てることはできない。
在任特例協議によって合併後最初に行われる選挙の時期が決まる結果になるにしても,選挙そのものは在任特例協議によって行われるものでもない。
そうしてみると,合併特例法6条8項の趣旨は,同項に定める告示をもって,議員定数特例協議や在任特例協議の効力発生要件にしたものではなく,これらの協議で定められた事項を広く住民に周知させる事実行為と位置付けているものと解するのが相当であり,したがって,同項に定める告示を欠いた場合においてもそのことによって当然に無効ということはできない。
ところで,争点?に関して述べたとおり,原告は,残留農薬基準値等,輸 入食品が満たすべき安全性の基準を満たさない食品を輸入し,販売してはな らない義務を負っており,この責任,義務は,当該輸入食品が安全性の基準 を満たさないことが検疫において発見されず,法違反通知がされないまま食 品等輸入届出済証が交付され,通関したとしても,消滅しあるいは免責され るものではない。
また,法26条4項は,検査命令を受けた者は,その結果 の通知を受けた後でなければ当該食品等を販売等してはならない旨規定して いるところ,この「通知」は単に製品検査結果通知書を物理的に受領すれば 足りるものではなく,その内容を了知することを当然に含む概念であると解 される。
したがって,食品等事業者は,検査命令を受けた食品を販売する前 に,当該食品について,安全性の基準を満たしているかどうかを確認するた めに,製品検査結果通知書の数値と基準値とを対照して調べなければならず, このことは当然法律上予定されているというべきであり,このような製品検 査結果通知書の数値と基準値とを対照して当該食品が安全性の基準を満たし ているかどうかの確認をせずに,これを出荷することは,法の全く予定しな いところである。
そうであるところ,原告は,自らに課せられた法3条及び26条4項所定 の義務を果たすため,本件通知書の数値と基準値とを対照するなどしてその 安全性を確認することなく本件しょうがをC青果に売却し出荷するという, 法の予定しない異常な行動をとったものであり,原告の主張する損害はこの ような異常な行動に基づいて発生したものであって,名古屋検疫所職員は, このような原告の異常な行動について予見しておらず,また,予見可能性も なかったから,そもそも結果回避義務違反としての国賠法1条1項にいう 「過失」は存しない。
(3) 争点(損害の有無及びその額)について 【原告の主張】 ア原告は,本件届出済証の交付により,次のとおり合計425万6412 円の損害を被った。
(ア) 転売先への返金229万1520円 原告は,本件届出済証が交付されたため,本件しょうがをC青果に対 して代金229万1520円で売却したが,後に本件しょうがの残留農 薬が基準値を超えていることが判明したため,7月19日,本件しょう がに係る上記代金をC青果に返還しており,同額の損害を被った。
(イ) 各小売店から中央市場までの回収費用99万8942円 (ウ) 中央市場からAの物流センターまでの回収費用2万5200円 (エ) Aの物流センターでの入出庫費用3万6750円 (オ) 廃棄処分費用90万4000円 イ被告の主張について 被告は,上記ア(ア)の損害に関し,原告が中国の輸出業者に対して損害賠 償等の責任を追及することが可能であるとして,原告には損害が生じてい ない旨主張する。
しかし,中国から輸入しようとする食品が,検疫所で不合格となり通関 できない場合には,中国の輸出業者の経費負担で中国へ返送(積戻し)す ることが可能であり,このような場合には,原告において何ら費用負担す る必要がなく損害は発生しないが,本件しょうがのように,日本の検疫所 でいったん合格品として認められ,通関手続を終えて内貨となってしまっ た場合には,後に日本での検疫が誤りであると判明しても,中国の輸出業 者に対して代金返還等の責任追及をすることは,商慣習上も,また信義則 上もできない。
また,被告は,上記ア(ア)の損害に関して,原告の損害賠償請求額は過大 である旨主張するが,上記返金額に得べかりし利益が含まれていたとして も,相当因果関係の範囲内である。
【被告の主張】 ア争点?について述べたとおり,原告は,本件通知書の数値と基準値とを 対照するなどして本件しょうがが安全性の基準を満たしているかどうかを 確認することなく,本件しょうがをC青果に出荷するなど,法の予定しな い異常な行動をとっている。
原告が主張する損害は,このような特別の事 情によって生じたものであるところ,名古屋検疫所職員がその特別事情を 予見し,又は予見可能であったことの立証は全くないから,本件届出済証 の交付と損害との相当因果関係は認められない。
イまた,原告が損害として主張するC青果に対する返金については,原告 は,本件しょうがの売主に対して,債務不履行,瑕疵担保責任又は不法行 為等に基づき売買代金の返還又は損害賠償を求めることができるから,い まだ財産的損害が発生しているとはいえない。
この点,原告は,いったん 通関した貨物についてはもはや輸出業者に対して責任を追及することがで きないと主張するが,そのような商慣習は存在しないというべきであり, 原告の主張は理由がない。
さらに,原告が主張する上記返金額には,仕入値相当分のみならず利益 相当分も含まれているが,C青果が原告との間の売買契約に基づき原告に 対して有する債権はいわゆる制限種類債権であるところ,本件しょうがは 本邦内では売買契約の当時からおよそ販売不可能で,原始的に履行が不能 なものであり,その反対給付である売買代金債権について原告が給付を受 けることもまた原始的に不能なものであって,その売買による利益を原告 が取得することは不可能であったのだから,その履行利益を損害として認 める余地はない。
のみならず,原告の輸出業者に対する本件しょうがの売買代金の支払の 事実については,そもそもこれを裏付ける的確な証拠はなく,仮に,甲第 28号証により原告が本件しょうがの売主に5万米ドル支払った事実が認 められたとしても,原告が本件しょうがの輸入の前後にも同一売主から本 件しょうがと同量のしょうがを輸入しており,甲第28号証に記載された 金員が本件しょうがの代金であるとは限らない。
ウさらに,原告が損害として主張する中央市場からAの物流センターまで の回収費用,Aの物流センターでの入出庫費用及び廃棄処理費用について いえば,前2者については請求書のみが証拠として提出されており,その 支払は立証されていないし,後者についても,その支払の立証があるとは いえない。
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。
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