第1 請求
1 主位的請求
被告は,原告に対し,2億2000万円及びうち2億円に対しては平成17年6月24日から,うち2000万円に対しては平成18年11月6日から各支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 予備的請求
被告は,原告に対し,2億0358万6301円及びうち2億円に対する平成18年4月29日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,原告が,A病院を設置運営していたB組合に対して2億円を貸し付けたことについて,主位的に,被告による故意の不法行為又は信義則上の注意義務違反に該当する行為があったと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求を求めるとともに,予備的に,被告は本件貸付金について債務保証又は第三者弁済の合意をしたと主張して,被告に対し,保証債務履行請求又は第三者弁済の合意に基づく貸金返還請求を求める事案である。2 前提となる事実(当事者間に争いがない)
(1) 当事者
ア原告原告は,銀行業務等を行う都市銀行である。
イ被告
被告は,地方自治法に基づく普通地方公共団体である。
(2) A病院の経営
アB組合は,昭和38年10月,A病院を設立し,平成18年4月1日まで同病院を経営していた。イB組合は,平成17年12月1日,民事再生手続開始を申し立て,平成18年4月1日,A病院を医療法人Cへ譲渡した。
(3) A病院の位置付け
アA病院は,いわゆる同和地区の医療の改善を目的として開設されたA診療所を前身とし,昭和43年10月のY市同和対策審議会答申及び昭和44年10月の大阪府同和対策審議会答申並びに同和対策事業特別措置法等を受け,昭和45年,大阪府市同和地区医療センターとして位置付けられた。イまた,A病院は,平成5年10月のY市同和地区医療施設検討委員会中間答申「A病院の今後のあり方について」において,「同和地区の医療に果たしてきた役割,周辺の医療機関の配置状況や市民病院に準じて地域医療に果たしている公的役割を考慮し,今後とも総合病院と同様の機能を維持発展させるべき」とされ,病院の役割・機能として,「公的医療機関としての機能の充実,予防医療,専門外来の充実等」,「市民病院に準ずる活動を行っていることから,今後の市立医療機関の整備に際し,一翼を担うものとして位置づける」などとされていた。
(4) 被告による資金援助
ア補助金の支給被告は,B組合が民事再生手続を申し立てるまでの間,B組合に対し,運営費補助金,建物設備補修工事補助金及び備品整備事業費補助金の名目で,継続して補助金を交付し,その総額は,昭和43年から平成16年までで約182億円であった。
なお,被告に対する補助金の申請及び精算報告は,本来であればB組合がすべきことであったが,実際には,被告の担当職員が実体の伴わない書類を作成することによって行われていた。
イ無担保貸付
被告は,B組合に対し,昭和49年度から平成16年度までの間,継続して無担保で貸付をし,その総額は,平成17年11月1日当時,130億5680万3000円であった。
被告は,B組合に対して,貸付金の弁済を求めることはなく,弁済期が到来すると,その都度,弁済期を延長していた。
なお,平成13年度から平成16年度までの間における貸付金額は下記のとおりである。
記
平成13年度5億1100万円
平成14年度2億5400万円
平成15年度1億2000万円
平成16年度7400万円
(5) 原告による貸付
ア原告は,昭和54年ころから,B組合に対し,A病院における賞与資金等に充てるために貸付を行っていた(なお,昭和54年にB組合と銀行取引約定を締結したのは○○銀行××支店であった。同支店は,平成○年○月の合併により,○×銀行××支店,さらに,平成△年△月の商号変更により,△△銀行××支店となった。その後,××支店廃止のため,B組合に対する貸付は△△銀行□□支店が管理することとなり,同支店は,平成□年□月の合併により,原告〔X銀行〕□□支店となった。
平成×年×月×日以降は,原告〔X銀行〕△△支店がB組合に対する貸付を管理している。)。
イ被告の健康福祉局長(ただし,平成12年までは環境保健局長)は,平成4年6月以降,原告に対し,原告がB組合に貸付をするに際して,貸付を依頼する旨の文書及び当該貸付金については被告がB組合に対して交付する補助金によって責任をもって借金返済させることを約束する旨の文書を作成して交付してきた。
ウ原告のB組合に対する貸付に関する交渉は,原告の担当者と被告の職員との間で行われていた。
(6) D銀行による貸付
D銀行は,B組合に対し,A病院の運転資金を貸し付けていた。原告のB組合に対する貸付額は,D銀行のB組合に対する貸付額に比べ低額であった。
(7) 本件迂回融資
ア被告は,D銀行がB組合に対するA病院の運転資金の貸付を拒絶したため,平成16年6月10日,D銀行からE協会に対して2億5000万円を融資させ,その資金をF局長名義でB組合に貸し付けた(以下「本件迂回融資」という。)。イF局長は,平成16年6月8日,D銀行に対し,「E協会に対する貸出について(依頼)」と題する文書を交付した。
この文書には,「同協会が貴行からお借りしたいと考えております下記2億5000万円につきましては,本市より支出するA病院運営補助金(平成17年度予算申請予定額6億3,000万円)を確保のうえ,責任を持って貴行に債務整理として返済させてまいります。
なお,貴行からの借入につきましては今年度限りとし,同協会にもその旨指導してまいります。」(「同協会」とはE協会のことである。)と記載されていた。
(8) 本件貸付
ア原告は,平成17年6月24日,B組合に対し,@利率は年5.5パーセント,A平成18年4月28日に期日一括返済をするとの約定で,2億円を貸し渡した(以下「本件貸付」という。)。イ被告は,本件貸付に当たり,「本市としましても,助成を行う立場から適切な指導,監督を行い,現在順調に経営改善が進んでおり,平成17年度には,所期の経営改善を達成できるものと考えております。」,「A病院の今回の借入金につきましては,平成18年4月28日までに,本市が責任をもって返済させますので,何卒ご理解いただき,引き続きご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。」とF局長名義の平成17年6月9日付けの確認書を交付した。
また,被告担当者は,原告に本件貸付を申し込むに当たって,原告担当者に対し,平成17年9月,同年10月及び平成18年1月ないし3月にD銀行から合計4億円を借り入れることを前提とした資金計画表を提出した。
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3 本件の争点
本件の争点は以下のとおりである。(1) 故意による不法行為責任の有無
(2) 信義則上の義務違反による不法行為責任の有無
(3) 損害額(前記1又は2が認められることを前提とする。)
(4) 債務保証又は第三者弁済の合意の有無(予備的請求)
4 原告の主張
(1) 故意による不法行為責任の有無(争点(1))
ア本件迂回融資の事実を秘匿して虚偽の事実を説明したこと被告は,原告に対し,本件迂回融資の事実を伝えれば,原告が本件貸付をしないということを認識していた。
このことは,被告が,@平成15年12月5日に原告から借り入れた2億2000万円(弁済期は平成16年5月31日)について,その弁済の原資となるD銀行からの借入が遅れたことによって,弁済期までに弁済することができなかったこと,A平成16年6月8日付け及び同年11月16日付けの「借入金返済確認書」と題する文書にD銀行からの融資の状況を記載していること,Bあらかじめ,平成16年度のD銀行からの融資額が4億2000万円から2億5000万円に減少した理由を協議した上で,原告に対して,その理由を「A病院の改修工事を行わなかったためである。」と説明したこと,C平成17年5月11日に開催された会議で配布された資料に「○銀行は,無担保でB組合に貸し付けているため,病院,市や×銀行の動きに敏感である。」,「○銀行は,4,5月の返済確認後,6月融資時に突然断る可能性も残る。それが引き金となった場合,資金がないなかでの法的整理となるため,即破綻することになる。したがって,絶対に情報を漏らしてはいけない。」と記載していること,D平成17年2月3日以降,B組合の資金繰りを示す「平成16年度補助金等執行見込」と題する表を原告に送付しなかったことなどから明らかである。
その上で,被告は,本件迂回融資の事実を秘匿するため,原告に対し,B組合がD銀行から直接融資を受けたかのような資料(甲10,11)を提出するとともに,その旨を口頭で説明することによって,原告をだまして錯誤に陥れ,その結果,原告にB組合に対する本件貸付金を交付させた。
したがって,被告の上記行為は,詐欺に該当するというべきであり,故意による不法行為である。
イ実現可能性のない資金計画表を提出したこと
被告は,原告に対して,B組合の平成17年度の資金繰りを示す資料として「平成17年度補助金等執行見込」と題する表(甲11)を交付している。しかしながら,B組合の平成17年度の資金計画表は,被告の内部検討資料として作成された「A病院の今後のあり方」と題する文書に添付された「年間資金計画表」(甲33)であって,これによれば,平成18年2月には資金不足になる。したがって,平成17年度中は資金不足とならないことを前提とした上記「平成17年度補助金等執行見込」と題する表(原告が受け取ったもの)は,実現可能性のないものである。
また,原告が受け取った前記「平成17年度補助金等執行見込」には,D銀行から融資を受ける予定である旨の記載がされているが,本件迂回融資以降,B組合がD銀行から融資を受けることは事実上不可能であった。
すなわち,B組合は,D銀行から本件迂回融資を受けており,迂回融資という形態を採らざるを得なかったこと自体,その信用状態が著しく悪化するなどして,以後,D銀行との間で安定した取引関係を継続することが期待できない状況にあることを意味するものである。
しかも,本件迂回融資についてみると,@迂回融資よりも問題の少ない他の方法を検討したものの,結局,迂回融資による方法が選択されており,A迂回融資に用いたF局長個人名義の預金口座を開設する際,本人確認手続が不適切であり,B直接の融資先であるE協会への弁済原資を確保する際に,K協議会に虚偽の名目で補助金申請を行わせて1億5000万円を支出するという地方公共団体としてあるまじき行為に及んでおり,Cこのような異常な形態の迂回融資を行った例はなく,被告もD銀行も,本件迂回融資以降,同様の方法での融資を実行することはできないと認識していたのであるから,本件迂回融資以降,B組合がD銀行から融資を受けることは事実上不可能であった。さらに,被告は,平成16年11月,D銀行から融資を断れたため,B組合に対し,特別運営貸付金として2400万円を貸し渡し,また,平成17年2月にも,D銀行からの融資を断られたため,B組合に対し,特別運営貸付金として2000万円を貸し渡したのであるから,かかる経緯からしても,本件迂回融資以降,B組合がD銀行から融資を受けることは事実上不可能であった。
この点からみても,原告が受け取った「平成17年度補助金等執行見込」と題する表(原告が受け取ったもの)は,実現可能性のないものである。
被告は,原告に対して,B組合の平成17年度の資金繰りを伝えれば,原告が本件貸付をしないことを認識し,その上で,あえて,実現可能性のない「平成17年度補助金等執行見込」を交付し,原告をだまして錯誤に陥れ,その結果,原告にB組合に対する本件貸付金を交付させた。
したがって,被告の上記行為は,詐欺に該当するというべきであり,故意による不法行為である。
ウ民事再生手続を計画していたこと
被告は,D銀行から融資を受けることが不可能となり,B組合が資金不足に陥ることが確実になったことから,今後の処理方針について検討を始めているが,その際に作成された各文書の記載内容からすると(甲30,31の1ないし3,32,33,34の1ないし3,35),被告は,原告に対して本件貸付を申し込んだ時点で,既に,@本件貸付の弁済期より前にB組合が民事再生手続開始を申し立てること,A上記申立てに先だって第三者委員会を設置し,第三者委員会の検討結果を受けて上記申立てに至ったかのような外観を整えることを決定していたといえる。
被告は,原告に対して,上記@及びAを伝えれば,原告が本件貸付をしないことを認識し,その上で,あえて,「本市としましても,助成を行う立場から適切な指導・監督を行い,現在,順調に経営改善が進んでおり,平成17年度には,所期の経営改善を達成できるものと考えております。」及び「A病院の今回の借入金につきましては,平成18年4月28日までに,本市が責任をもって返済させますので,何卒ご理解いただき,引き続きご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。」という客観的状況とはかけ離れた内容を記載した文書(平成17年6月9日付け「借入金返済確認書」と題する文書,甲5の25)を交付し,原告をだまして錯誤に陥れ,その結果,原告にB組合に対する本件貸付金を交付させた。
したがって,被告の上記行為は,詐欺に該当するというべきであり,故意による不法行為である。
(2) 信義則上の義務違反による不法行為責任の有無(争点(2))
ア被告が負う義務の内容(ア) 融資申込者が負う義務の内容
一般に,契約締結交渉を開始し,契約準備段階に入った者は,一般市民間における関係とは異なり,信義則の支配する緊密な関係に立つのであるから,相互に相手方の人格,財産を害しない信義則上の義務を負い,これに違反して相手方に損害を及ぼしたときは,損害賠償義務を負うというべきである。
金融機関による融資の場合,金融機関は,自ら情報を収集,分析し,融資の可否について判断するのであるが,融資申込者の内情を直接調査する権限を有しているわけではないから,融資申込者に対し,融資の可否に影響する情報である業績,資金繰り等に関する資料の提出を求め,その内容を分析し,融資の可否を判断するのが通常である。
特に,公表されている情報が乏しい非上場企業等に対する融資の可否の判断においては,融資申込者から提出される資料の重要性は極めて高い。
したがって,融資交渉中の申込者は,融資判断に影響する事項について金融機関から情報提供を求められた場合,当該時点で融資申込者において判明している諸事情に照らして可能な限り適正な,すなわち,正確で客観的に実現可能性を認めることのできる情報を提供すべき信義則上の義務を負うというべきである。
(イ) 被告が負う義務の内容
本件貸付の融資申込者は,形式的にはB組合であるが,B組合が経営するA病院は公的医療機関として位置付けられており,被告は,長年にわたって,B組合に対して,多額の貸付,補助金の交付及び被告が所有するA病院の底地の無償使用などの支援をし,さらには,医師を派遣するなどの人員面での支援をも行っていた。
また,金融機関との融資交渉も,専ら健康福祉局の担当職員が行っており,本件貸付についても同様であった。
そればかりか,補助金の申請及び清算報告をするには,本来であればB組合が必要書類を作成して被告に提出しなければならないところ,実際には,健康福祉局の担当職員が実体の伴わない書類を作成して被告に提出していたのであり,B組合の資金繰りは実質的には被告によって管理されていたことがうかがわれる。
これらの事情からすると,被告は,原告に対し,本件貸付を申し込むに当たって,前記(ア)の情報提供義務を負っていたというべきである。
イ義務違反
(ア) 本件迂回融資の事実を秘匿して虚偽の事実を説明したことa 銀行における融資審査の実務上,他行の動向は極めて重要な判断要素とされる。
とりわけ,融資額が大きい金融機関については,他の金
融機関と比較して,当該融資先の資金繰りに深く関与し,その信用状態に関してもより多くの情報を得ることができるのであるから,融資額が大きい金融機関が融資額を減らすといった事態は,当該融資先の信用状態が悪化していることを意味すると考えるのが一般的である。
本件では,D銀行は,公金取扱事務等地方公共団体関連の取引を専門的に取り扱う公務部と呼ばれる部署がB組合に対する貸付を担当しており,B組合に対する融資の目的も使途の限定のない運転資金であり,平成15年度までは原告の融資額を常に上回っていたのであるから,D銀行は,融資の可否の関する情報を,原告よりもはるかに多く収集できる立場にあったということができる。
したがって,D銀行のB組合に対する融資の状況は,原告がB組合に対する融資の回収可能性を判断するに際して極めて重要な判断要素であった。
b しかも,B組合は,平成16年6月当時,既に,D銀行からの融資がなければ原告からの借入金を弁済することができない状態にあったのであり,それ後B組合の資金繰りが改善した事実も認められない上に,被告が平成17年度のB組合の資金計画として作成した「年間資金計画表(甲8,33,34」の3)によれば,B組合は,D銀行から融資を受けることができず,その結果,本件貸付の弁済期前である平成18年2月には資金不足に陥ることが見込まれているのであるから,B組合は,D銀行からの融資がなければ,本件貸付を弁済することはできない状態にあった。
この点からみても,D銀行のB組合に対する融資の状況は,原告がB組合に対する融資の回収可能性を判断するに際して極めて重要な判断要素であった。
c 以上のとおり,D銀行のB組合に対する融資の状況は,原告がB組合に対する融資の回収可能性を判断するに際して極めて重要な判断要素であったのであるから,実質的な融資申込者である被告は,原告に対し,D銀行のB組合に対する融資の状況について,可能な限り正確な情報を提供すべき信義則上の義務があった。
それにもかかわらず,被告は,原告に対し,本件迂回融資の事実を秘匿し,B組合がD銀行から直接融資を受けたかのような説明をしたのであるから,信義則上の義務に違反したというべきである。
(イ) 実現可能性のない資金計画表を提出したこと
前記(1)イのとおり,被告は,B組合が本件貸付を受けるに当たって,原告に対し,実現可能性のない「平成17年度補助金等執行見込」を交付したのであるから,信義則上の義務に違反したというべきである。
(ウ) 民事再生手続を計画していたこと
前記(1)ウのとおり,被告は,B組合が本件貸付を受けるに先立って,@本件貸付の弁済期より前にB組合が民事再生手続開始を申し立てること,A上記申立てに先だって第三者委員会を設置し,第三者委員会の検討結果を受けて上記申立てに至ったかのような外観を整えることを決定していたにかかわらず,原告に対し,このことを伝えず,あえて,「本市としましても,助成を行う立場から適切な指導,監督を行い,現在順調に経営改善が進んでおり,平成17年度には,所期の経営改善を達成できるものと考えております。」及び「A病院の今回の借入金につきましては,平成18年4月28日までに,本市が責任をもって返済させますので,何卒ご理解いただき,引き続きご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。」という客観的状況とはかけ離れた内容を記載した文書(平成17年6月9日付け「借入金返済確認書」と題する文書)を交付したのであるから,信義則上の義務に違反したというべきである。
(3) 損害額(争点(3))
ア原告は,被告による故意又は信義則上の義務違反を原因とする不法行為によって,B組合に対し,本件貸付として2億円を交付し,その全額が回収不能となっている。イさらに,原告は,本訴を提起するに当たり,弁護士に委任せざるを得なかったところ,被告による不法行為と相当因果関係にある弁護士費用は2000万円を下らない。
ウよって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として,2億2000万円及びうち2億円(前記ア)に対しては平成17年6月24日(不法行為日)から,うち2000万円(前記イ)に対しては平成18年11月6日(訴状送達の日)から各支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
(4) 債務保証又は第三者弁済の合意の有無(争点(4))
ア債務保証又は第三者弁済の合意の有無被告は,原告に対し,本件貸付を含め,少なくとも14年間,25回にわたって,健康福祉局長名で融資を依頼する文書及び被告が責任をもって弁済させる旨の確認書を交付してきた。しかも,上記確認書の大半には,弁済原資を被告がB組合に交付する補助金とすることが明記されており,実際にも,原告からの借入の弁済に被告が交付した補助金が充てられていた。そのことに,A病院は公的医療機関として位置付けられており,これまでに被告はB組合に対して多額の資金援助をしてきたこと,B組合に対する融資に関する金融機関との融資交渉は,専ら健康福祉局の職員が行ってきたことを併せ考えると,原告と被告との間には,B組合が原告に対して負担する本件貸付に係る債務を被告が保証又は第三者弁済する旨の合意があったというべきである。
イ未収利息
本件貸付に係る未収利息は,358万6301円である。
ウ遅延損害金
本件貸付に係る遅延損害金は,弁済期の翌日である平成18年4月29日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員である。
エよって,原告は,被告に対し,保証債務履行請求権又は第三者弁済の合意に基づく貸金返還請求権として,2億0358万6301円及びこれに対する弁済期の翌日である平成18年4月29日から支払済みまで約定の年14パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
5 被告の主張
(1) 故意による不法行為責任の有無(争点(1))
ア本件迂回融資について(ア) 原告は,被告がD銀行からの融資が迂回融資であったことを秘匿したことをもって,故意による不法行為であると主張する。
(イ) しかしながら,そもそも,原告が,B組合に融資をしていたのは,被告がB組合に対して補助金を交付するなどして支援し,原告に対して返済確認書を交付していたからであって,D銀行が融資をしていたからではない。
また,本件迂回融資によって,D銀行からの資金によってB組合のキャッシュフローが増加したことは事実であるし,仮に,D銀行からの融資がなくても,被告から補助金又は貸付金が交付されれば,本件貸付についても弁済することができたはずである。
このような事情から,被告担当者は,本件迂回融資は実質的にはD銀行からの融資であると考えており,本件迂回融資の事実を原告に報告する必要性を特に感じていなかったのである。
したがって,被告がD銀行からの融資が迂回融資であったことを告知しなかったことをもって,故意による不法行為であるということはできない。
(ウ) ところで,原告は,故意による不法行為を裏付ける事実として,被告が,平成17年2月3日以降,「平成16年度補助金等執行見込」と題する表を送付しなくなったことを指摘するが,上記表が送付が中断したのは,単に,人事異動による引継ぎが十分にされなかったというだけであるから,原告の上記指摘は誤りである。
イ「平成17年度補助金等執行見込」と題する表を提出したことについて(ア) 原告は,被告が原告に提出した「平成17年度補助金等執行見込」と題する表(甲11)は実現可能性が著しく低く,これを提出したことをもって,故意による不法行為であると主張する。
(イ) しかしながら,被告が原告に提出した「平成17年度補助金等執行見込」と題する表は,その表題から明らかなとおり,あくまでも見込みを記載したものすぎない。
D銀行からの融資についても,D銀行の担当者から「お貸しできる条件に合えば協力させてもらう。」との回答がされていたし,平成16年度の融資についても厳しい状況であったにもかかわらず,最終的に融資を受けることができたのであるから,被告としては,平成17年度についても,何らかの方法で,D銀行からの融資を受けることができると考えていたのである。
したがって,被告が「平成17年度補助金等執行見込」と題する表を提出したことをもって,故意による不法行為であるということはできない。
(ウ) ところで,被告が作成した「年間資金計画表」と題する表(甲8,33,34の3)には,D銀行からの融資が行われず,平成18年2月に資金不足となることが記載されているが,これはG市長に対して,緊迫感を伝えることによって補助金の必要性を強調するためであった。
また,被告のB組合に対する特別運営貸付の際の決裁文書に添付された資料(乙4の2,6の2)には,D銀行との融資交渉が難航しているかのような記載があるが,これは事実ではない。
被告においては,「平成17年度には新たな貸付金の発生はなくす」との経営改善計画が策定されていたため,新たな貸付をするためには相当の理由が必要であったことから,特別運営貸付の必要性を特に強調する必要があった。
そのため事実と異なる記載, がされたものである。実際には,D銀行からは「平成16年度の融資予定の残額1億7000万円はいつ融資が必要なのか。借りていただかないと,A病院の資金繰りが回らないことになるので借りて欲しい。」と言われていたものの,A病院の改修工事の基本調査も終わっていなかったため(なお,「B組合A病院基本調査報告書(抄)」と題する文書〔乙7〕が作成されたのは平成17年6月ないし7月ころであった。),B組合において,改修工事に関する資金需要がなく,それ故,D銀行からの融資が実現しなったのである。
ウ「借入金返済確認書」と題する文書を提出したことについて
(ア) 原告は,被告が,B組合に民事再生手続開始の申立てをさせることを事実上決定していたにもかかわらず,B組合の支援を継続することによって借入金を責任をもって全額返済させる旨のF局長名義の「借入金返済確認書」と題する文書を提出したことをもって,故意による不法行為であると主張する。
(イ) しかしながら,被告において,B組合に民事再生手続開始の申立てをさせることが決定されていたとの事実はない。
このことは,被告において作成された文書はいずれも検討案にすぎないこと,B組合の経営改善は順調に進んでいたこと,被告の担当者から説明を受けたG市長も民事再生手続開始の申立てについては何も述べていなかったこと,B組合の意向を無視して民事再生手続開始の申立てをすることは不可能であったことなどから明らかである。
また,平成18年度にも補助金が交付されれば,本件貸付を弁済することはできたのであり,補助金については,健康福祉局が現実に予算要求をしていたものの,G市長の突然の辞任により,補助金の支出が困難となり,平成17年12月1日のB組合による民事再生手続開始申立によって,補助金が支出されることはなくなってしまった。
このような経緯で,本件貸付の弁済が不能となったのであり,「借入金返済確認書」と題する文書(甲5の25)が作成された平成17年6月9日当時においては,弁済期までに被告が責任をもって弁済させる旨の記載は,虚偽のものでも実現可能性が極めて低いものでもなかったことは明らかである。
よって,被告が原告に「借入金返済確認書」と題する文書を提出したことをもって,故意による不法行為であるということはできない。
(2) 信義則上の義務違反による不法行為責任の有無(争点(2))
ア融資申込者が負う義務の内容一般に,金融機関は融資申込者に対して優越的な立場に立っているのであるから,あたかも両者が平等な立場に立っているかのような前提で,信義則上の義務の有無を検討することは妥当ではない。
仮に,信義則上の義務を想定するとしても,その違反が不法行為責任に直結することを前提とするのであれば,少なくとも不法行為の成否を検討する上では,融資申込者の自己保存のための行動原理と,金融機関に通常求められる審査能力との均衡点として,「融資判断に決定的な影響を与える程度の相当な限度を超える,債務者の妨害的情報隠し又は虚偽情報を提供することは許されない」という限度の,ごく当然の義務を負うにとどまるというべきである。
したがって,仮に,融資申込者が金融機関に対して何らかの信義則上の義務を負うとしても,その義務の具体的内容は,上記の均衡の観点から限定的に解釈されなければならない。
イ義務の主体
融資申込者本人ですら,金融機関に対して信義則上の義務は前記アの限度にとどまるところ,本件においては,被告は融資申込者ではない。被告は,B組合から原告との交渉をする代理権を授権されていたわけではないし,原告に対してB組合の情報をすべて提供することについての承諾を得ていたわけでもないのであるから,仮に,「B組合はD銀行からの融資を受けることはできない。」などといった情報を原告に提供し,その結果,B組合が原告からの融資を受けることができなくなり,破綻するに至ったということになれば,被告はB組合から損害賠償請求を受ける立場にある。
しかも,原告は,B組合の財務リスクを考慮して,徐々に金利を上げていたのであるから,原告自身,融資の当事者はB組合であると考えていたことは明らかである。
したがって,被告が,原告が主張する信義則上の義務を負担することはないというべきである。
ウ義務違反
仮に,被告が原告に対して何らかの義務を負っていたとしても,前記(1)で述べたところからすると,被告が信義則上の義務に違反したということはできない。
また,原告が,被告の信義則上の義務違反を問題とするのであれば,原告が金融機関として最低限のことをしていることが前提となるが,原告は,金融機関としてB組合と全く接触しておらず,金融機関としてはあるまじき対応であった。
(3) 損害額(争点(3))
原告の主張(前記4(3))は争う。本件貸付は,実質的には,借換えであり,弁済期限の延長である。すなわち,本件貸付がされることを前提として,その直前の貸付について弁済されることになっていた。
したがって,仮に,原告が本件貸付を行っていなかったとすれば,平成16年度に行われた原告のB組合に対する貸付について弁済がされないことになる。
よって,被告に不法行為があったとしても,そのことと因果関係になる損害は発生していないというべきである。
(4) 債務保証又は第三者弁済の合意の有無(争点(4))
ア債務保証について法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律3条によれば,地方公共団体は,会社その他の法人の債務について保証契約を締結することはできないとされているし,保証契約は書面でしなければならないところ,本件では書面はないのであるから,被告が原告に対してB組合の債務を保証した事実がないことは明らかである。
イ第三者弁済の合意
F局長及びH課長らの被告担当者は,第三者弁済の合意をする権限を有していないのであるから,被告が原告に対してB組合の債務を弁済する旨の意思表示をしたとの事実はない。
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